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広島地方裁判所 昭和40年(わ)496号 判決

被告人 原田豊 外二名

主文

被告人原田豊を懲役二年に、

被告人中岩雄、同原田保を各懲役一年六月に処する。

ただし、この裁判確定の日から、被告人中岩雄、同原田保に対し各三年間それぞれその刑の執行を猶予する。訴訟費用中、証人高下智、同山崎靖幸、同今田勇、同林要、同西田平一に支給した分は被告人原田豊の負担とし、証人鎌倉勇、同岩崎安男、同池田寿夫に支給した分は被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一被告人原田豊は、かつて広島県双三郡十日市町の町会議員となり、後に同町外七ケ町村が合併して三次市になつた昭和二九年三月ごろから昭和三七年一〇日ごろまでの間三次市議会議長をつとめ、昭和三八年四月三〇日には三次市から広島県議会議員に選出され、ついで同議会の建設委員会副委員長の役職についたほか、三次市および双三郡内の土木建築業者をもつて組織する双三建設協会の名誉顧間を兼ね、そのため同地域の土木建設業界を牛耳るとともに、自らも三次市十日市町において、土木建築請負業を営む株式会社原田興業社の実質上の代表者としてその業務全般を統轄していたもの、被告人原田保は同会社の専務取締役、被告人中岩雄は同会社の従業員としていずれも被告人原田豊を補佐していたものであるが、昭和三八年九月ごろから三次市内において施行された東洋工業株式会社高速自動車テストコースの土木工事につき、さきに右原田興行社が工事用砂利等の納入を一括して日本国土開発株式会社から請負い、これを三次市内の砂利採取販売業者である株式会社片山組、同吉村物産および有限会社岩田砂利に下請けさせて利益をあげていたところ、さらに昭和三九年二月ごろ右テストコースの舗装工事に要する骨材納入を請負つた中国砂利株式会社から、被告人原田豊に対し砂利等の納入につき協力を求めてきたので、同被告人は右会社に対し前記三業者を紹介するとともに、右三業者に対しては、話し合いのうえ適宜の措置をとるよう指示したので、これら業者は今後原田興行社を通さないで直接右中国砂利株式会社と取引しても差支えないものと考え、同会社との間に砂利等納入の契約を締結し、被告人原田豊らに対し右契約の内容を報告せずに砂利等を納入していたところ、被告人らはこの事実を知り、かつ右納入の砂利等が当初予想していたよりも大量でしかも長期間におよぶため、その利益が多額に上ることを考えるや、右三業者に対し、圧力を加えて右各契約を破棄させたうえ、右砂利等納入についても前記日本国土開発株式会社との間の契約におけると同様、原田興行社が中国砂利株式会社から一括して請負い、前記三業者には右請負価格より低廉な価格で下請させることにより、その差額たる利益を取得しようと相謀り、昭和三九年六月上旬ごろ、被告人中において三次市十日市町の路上等で前記片山組の代表取締役方用元、吉村物産の専務取締役郭常永および岩田砂利の専務取締役岩田敏夫に対しそれぞれ「お前らは中国砂利に砂利を入れとるじやないか、原田先生(被告人原田豊を指す)にわかると大事になるんじやけん、一応納入をやめて原田先生の指示を待て。」等と申し向けさらにそのころ被告人原田豊が、前記原田興業社の事務室において、困惑して指示を仰ぎに来た方用元、郭常永および岩田敏夫に対し「お前らやせ犬が骨にしやぶりつくようなことをしやがる、やりたいなら勝手にやれ、その代り後のことはわしは知らんぞ。」等と申し向けて、暗に右三業者の中国砂利株式会社に対する従前の砂利等の納入を中止するよう要求し、もし右要求に応じないときは、これらの業者に対し、被告人原田豊の前記のような三次市周辺の土木建築業界における地位、勢力を利用し、今後の工事請負及び施行等につき如何なる妨害を加えるかも知れないとの態度を示して右三名を畏怖させ、そのため右三業者がやむを得ず砂利等の納入を中止し、これによつて工事の施行に支障をきたした中国砂利株式会社が被告人原田豊に善処を求めてきたので、同年六月二二日ごろ、同会社をして右三業者との前記砂利等納入契約を破棄させ、あらたに原田興行社との間に同一の内容、条件のもとに砂利等納入契約を締結させたうえ、同月下旬ごろ前記原田興業社において、被告人原田豊が右三業者に対し「これから自分の方で入れるようになつたから、お前ら下請するか。」と申し向けて、今後は原田興業社との下請契約のもとに、右三業者が中国砂利株式会社に対し納入していた価格より低廉な単価で砂利等の納入をなすべき旨を要求し、前同様畏怖している右三業者をして、中国砂利株式会社に直接納入していた価格より砂利等の種類に応じ、一立方メートル約五〇円から一三〇円位安い価格で、原田興業社の下請として納入する契約を締結するのやむなきに至らしめ、右契約に基づき、前記片山組をして同年七月一一日ごろから同年一二月七日ごろまで合計約三、六三六立方メートルの砂利等を納入させ、もつて右片山組が中国砂利株式会社に直接納入していた際の価格と原田興行社の下請として締結した価格との差額である合計金三九八、〇一一円相当の財産上不法の利益を取得したほか、前記吉村物産をして昭和三九年七月二一日ごろから同年一一月一六日ごろまで合計約一、〇一五・三立方メートルの砂利等を納入させて右差額に該当する合計金一〇八、五三一円相当の財産上不法の利益を得、さらに前記岩田砂利をして同年七月一一日ごろから同年一二月二日ごろまで合計約四、五八四・七立方メートルの砂利等を納入させて右差額に該当する合計金五三二、六三三円相当の財産上不法の利益を取得し

第二被告人原田豊は、昭和三八年四月二七日、三次市十日市町七一一番地建設省中国地方建設局三次工事々務所で施行された建設省昭和三八年度大浜護岸災害復旧工事の競争入札に際し、他の業者と相談のうえ、同工事を金光建設株式会社に落札させようと意図していたところ、株式会社中川建設代表取締役中川清一が右意図に反して、右工事を落札しようとしたことに立腹し、同日午前九時五〇分ごろ、前記事務所入口付近において、同人に対し「このほいと(乞食の意)奴が、三次の方まで来やがつてほいとしやがる、この工事をとろうとしてもとらしやせんぞ。」等と怒号し、かつ同人が入札のため右事務所に立ち入ろうとするや、同人の面前へ執拗に立ちふさがつて入場を阻止し、もつて威力を用いて右入札の公正を害するとともに、同人による前記株式会社中川建設の業務を妨害し

第三被告人原田豊は、日ごろ些細なことに激昂して脅迫的言動に及ぶ習癖を有する者であるが、常習として

一  昭和三七年一一月下旬ごろ、三次保健所公衆衛生課長高下智が、同被告人を監査役とするスーパーマーケツト「とらや」の代表者杉原淑子に対し、その魚介類販売施設の改善を指示し、かつこれについて誰が相談にきても結果は同じことだと言つたことに憤慨し、そのころ三次市十日市町所在の右保健所公衆衛生課において、右高下智の身近につめより「とらや以外にも不良な店があるじやないか、お前は職務怠慢で月給どろぼうじや、どこでお前に会つても大衆の面前ではつきり伝えてやる。」等と怒号し、もつて同人の身体、名誉等に害を加えるべき気勢を示して、同人を脅迫し

二  昭和三八年五月一一日ごろ、同市南畑敷町三次高等学校々長室において、藤川卓郎に対し、同人が同年四月二三日施行せられた広島県議会議員選挙にあたつて、被告人原田豊の対立候補者平川昌三を支持し、その選挙演説において、暗に同被告人が良からぬ前歴を有することを示唆した旨を聞知していた関係上、これに因縁をつけて「選挙のときは俺を侮辱したのう、よくも恥をかかしてくれたのう、なんとか返事をしたらどうか。」と怒号して、同人の身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し

三  同年六月ごろ、同市四十貫町付近路上を進行中の広島県比婆郡西城町発広島バスセンター行の広島電鉄バス内において車掌山崎靖幸から車内に痰を吐いたことを注意されて立腹し、同人につめより「わしは三次の原田じや、わしは県会議員をしているんだぞ、大勢の客の前でよくも恥をかかせてくれた忘れはせんから覚えておけ。」等と怒号し、同人の身体等に危害を加えかねない態度を示して脅迫し

四  かねて株式会社原田興行社が広島県三次土木建築事務所に対し、同市向江田町腕手付近の馬洗川川原における砂利等採取の許可申請をしていたところ、昭和三八年九月七日ごろ、右事務所が同業者の株式会社吉村物産にこれを許可したことに因縁をつけ、同年一〇月下旬ごろ、同市十日市町所在右事務所維持管理課において、同課長今田勇に対し「地元の県会議員を馬鹿にしやがる、同じ業者に許可して、お前らぜにを貰つとるんじやろうが、建設委員会で問題にしてやる。」等と怒号して、同人の名誉に害を加えるべき旨告知して同人を脅迫し

五  昭和三九年一二月上旬ごろ、林要が三次市議会議員で結成している被告人原田豊支持の親和会から離脱して、あらたに市政同志会を結成したことに因縁をつけ、同月一三日ごろ同市十日市町三次市役所玄関付近において、同人に対し「おい、お前だけは人間かと思つていたが、やつぱり犬だつたか。」等と怒号して同人の身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し

六  昭和四〇年四月ごろ、広島県三次土木建築事務所の維持管理課長盛中達雄が株式会社下隠組の請負つた同市志和地町片山付近の可愛川護岸災害復旧工事の竣工検査にあたつて、石垣の一部を抜き取つて検査する、いわゆる抜取検査を実施したのを同会社から聞知するや、同月二六日ごろ右事務所において、同人に対し「抜取検査をやつたというが、今までやつていないのを、どうしてやつたのか、県議会の建設委員会で問題にする。」等と怒号して、同人の名誉に害を加えるべき旨告知して脅迫し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

なお、弁護人は、判示第三の事実のうち、暴力行為等処罰に関する法律一条の三の常習性を争うが、前記判示第三の事実に関する各証拠によれば、被告人原田豊はもともと性格的に短気で、日ごろ些細なことに激昂して脅迫的言動に及ぶ習癖が認められるうえ、判示第三の各犯行の間にそれぞれ意思の関連性および行為の態様の類似性が認められる。そしてこれと相前後する判示第一(恐喝)、判示第二(入札妨害、威力業務妨害)の各事実に関する前掲各証拠によつて認定しうる有各犯行の際の言動をもあわせ考えれば、同被告人はかかる脅迫的行為を反覆、累行する習癖を有するものと認められ、従つて判示第三の各脅迫行為は同被告人が常習としてなしたものと認定するのが相当である。

(法令の適用)

被告人原田豊の判示第一の各所為はいずれも刑法六〇条、二四九条二項に、判示第二の所為中、入札妨害の点は同法九六条の三一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、威力業務妨害の点は刑法二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第三の所為は包括して暴力行為等処罰に関する法律一条の三後段に各該当するところ、判示第二の入札妨害と威力業務妨害は一個の行為で二個の罪各に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により重い威力業務妨害罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により刑並びに犯情の最も重い判示第一の有限会社岩田砂利に関する恐喝罪の刑に法定の加重をした(たゞし、短期は判示第三の罪の刑のそれによる)刑期の範囲内で処断すべく、被告人中岩雄同原田保の判示第一の各所為はいずれも同法六〇条、二四九条二項に該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い有限会社岩田砂利に関する恐喝罪の刑に法定の加重をした各刑期範囲内で処断すべきところ、以下各被告人の情状について考察する。先ず、被告人原田豊は、かつて暴力団の組長としていわゆる社会の裏街道を歩んだけれども、その後二〇年余りにわたつて更生の実を挙げ、判示第一のような経歴をたどつて三次地方において指導的地位に立ち、市議会議員をつとめるかたわら、消防団や遺族会等の活動に対しても積極的な意欲を示し、かつ人命救助などの善行があつたことが認められる。また判示第一の恐喝の所為については、その後被害は弁償されているし、さらに当公判廷における被告人の態度に反省の色も認められるが、その反面、本件各犯行や同被告人の日ごろの素行にてらし、なお性格的な粗暴さが窺えるばかりでなく、判示第一のような地位、勢力による被告人原田豊の土建業者に対する支配力はすこぶる強度のものであつたことが認められ、このような背景のもとに、自己又は特定の者の利益のために不当な圧力を加えて他に犠牲を強いていたことは、被告人が県民の代表者たる県会議員の地位にあつただけに、一層強くその責任を追求さるべきものといわなければならない。また判示第一の犯行の方法は巧妙で悪質とみられ、且つ右犯行が社会に与えた影響も甚大であり、それは被害者に対する金銭的弁償のみによつてはまかないきれない性質のものである。加えるに、判示第二、第三の各犯行における言動はいやしくも県会議員としてあるまじきことで、県民の信頼と期待を裏切つたものというほかない。このように考えると同被告人は現在相当反省しているとはいえ、その刑事責任は決して軽度のものではない。次に、被告人中岩雄、同原田保について考えるに、判示第一の所為は前述のように決して軽視すべきものではないが、同被告人らは被告人原田豊の指示のもとにいわば同人の手足として右犯行に加担したものと認められ、且ついずれも自己の行為を反省している事実が認められる。以上の諸事情を総合し、被告人原田豊を懲役二年に、被告人中岩雄、同原田保を各懲役一年六月に処し、なお被告人中岩雄、同原田保については、同法二五条一項一号を適用してこの裁判の確定した日から各三年間それぞれその刑の執行を猶予することとし、訴訟費用中、証人高下智、同山崎靖幸、同今田勇、同林要、同西田平一に支給した分は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人原田豊に負担させ、証人鎌倉勇同岩崎安男、同池田寿夫に支給した分は同法一八一条一項本文、一八二条により被告人らに連帯して負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 西俣信比古 立川共生 野口頼夫)

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